第16回 歯磨きは仏教の戒律のひとつだった!?

口腔衛生思想の起源をたどると、紀元前600年頃にインドの大医スシュルタが著した医書『スシュルタ本典』に行き着きます。“朝早く起きて歯を磨くこと”を提唱したスシュルタは、仏教を開いた釈迦と同時代の人で、それゆえか、仏典のなかにも同様のことが記されてあり、さらに、歯磨きは重要な戒律のひとつとされていました。

当時の歯磨きは、小指ほどの太さの潅木の端を噛んだり、石で房状に叩き潰したものを使っていました。この歯ブラシの原点とも言うべきものは、中国語の教典のなかでは、歯木あるいは楊枝と訳されています。歯磨きが日本に入ってきたのは、552年。仏教の伝来によるもので、当初は、僧侶や公家などの上流階級の人々が「禊(みそぎ)」として行なっていました。

江戸時代に入ると、歯磨きの習慣は広く庶民にも浸透し、その需要に応えるため、神社や寺の境内では楊枝見世(店)が軒を並べました。現在のような西洋式歯ブラシの最初は、鯨のヒゲの柄に馬毛を植毛したもの。「鯨楊枝」と呼ばれ、日本には1837年に登場しました。