第10回 史上初の総義歯は、日本で作られた

日本に現存する最も古い総義歯(総入れ歯)は、1538年(天文7年)に74歳で没した仏師が使用していたもので、つげの木からできています。現代の総義歯と同じ型で、同じ機能を持ち、同じように歯ぐきの粘膜面に吸着させる方法が採用されているとのことですから、立派に用をなしたのでしょうね。

外国において初めて総義歯が作られたのは、1738年。近代歯科医学の父と言われるフランスのピエール・フォシャールが考案しました。つまり、西欧より200年も前に日本には近代総義歯の原型があったわけです。 では、なぜ、日本は世界に先駆けて木製の義歯を作ることができたのか。その理由に、古来より仏像・能面・根付けなどの木彫技術が発達していたことが挙げられます。平安時代の運慶・快慶に代表される木彫技術が木製総義歯の母体となったわけで、安土桃山時代以降、仏像彫刻の注文が少なくなった仏師が、生活の糧として義歯を作っていたことが記録に残されています。

江戸時代になると、仏師のアルバイトだった義歯作りも、入歯師と呼ばれる専業者の手になるようになります。その結果、義歯は広く普及し、滝沢馬琴・杉田玄白・本居宣長などもお世話になっていたとのことです。